「奥様! ルルーシュ様!」

ミレイが少し急ぎ足で入っていったのは、宮殿の一角に作られた図書室。
豪奢でありながらいやらしさを感じさせず気品にあふれたその広い室内には、魔界全土から集められた書物だけではなく人間界から取り寄せられた書物魔でもが所狭し並べられていた。

そこに、探していた人物は居た。

図書室の一番奥まった場所に、ルルーシュは座っていた。



『幸せな日々に幸福を・・・』



「どうしたのミレイ? そんなに慌てて」

ルルーシュは読んでいた本を綴じ、机の上に置いた。
そんなルルーシュにミレイはいつものような周りを弄ぶような表情は一切見せず、少し焦ったようにルルーシュに話かけた。

「どうしたじゃありません! 今日はシュナイゼル殿下と一緒にクロヴィス殿下の誕生パーティーに出席なさるのでしょう!」
「あっ・・・、そうだった・・・・・・」
「『あっ』じゃありません! もうすぐシュナイゼル殿下がご公務の視察から帰って来られる時間だというのに、ルルーシュ様がちっとも自室に戻ってこられないのですもの! もう準備をしないと間に合わなくなりますよ!」
「あぁ・・・わかった、今行く」

そう言うとルルーシュはミレイの後について準備のために自室へと戻って行った。










「それで、あんなにミレイ嬢は慌てていたんだね」

シュナイゼルがそう言うと、ルルーシュは少し困ったような笑みを浮かべた。
今、ルルーシュとシュナイゼルはパーティー会場へと向かう馬車の中で寄り添いあうように座りながら話をしていた。

あれからミレイやほかの侍女たちは驚くべき速さでルルーシュの支度を整えた。
しかし、どれだけ急ごうがミレイがルルーシュへ着飾るのに手を抜くはずが無くそのおかげでシュナイゼルの隣に座っているルルーシュは見事なまでに美しく着飾っていた。
元々の美貌はもちろんだが、艶やかでいて気品にあふれた夜会用の淡い紫色のドレスに、ルルーシュ本来の美しさを損なうことのないほどにされている薄化粧が一層彼女を際立たせていた。

そんな妻の姿に満足そうにしながら、内心そんなルルーシュの姿をパーティーに来ている他の客達に見られてしまう事を考えシュナイゼルに不快感が起こったのは言うまでもない。

「私が悪いんです。今日はクロヴィス殿下の誕生パーティーがあると分かっていながら本に夢中になってしまって・・・・・・」
「君は本を読んでいると時間を忘れてしまうからね・・・。あんまり夢中になり過ぎて、そのままうたた寝でもして体を壊しはしないか心配だよ・・・・・・」
「大丈夫ですよ。私だって魔族なのですから、人間よりは断然体は丈夫なんですよ?」

「しかし、君はあまり体力のある方じゃないからね。そのせいで昨日の夜の時だって・・・・・・」

そこまで言われた瞬間、ルルーシュの顔が耳まで真っ赤になった。
何を言われたのか一瞬で理解してしまったからだ。

「シュナイゼル殿下!」

ルルーシュは慌ててシュナイゼルの名を叫んで赤くなった顔をなんとか落ち着かせようとした。
シュナイゼルはそんな様子のルルーシュを愛おしとうに見つめながら、肩に回していた手に少し力を込めた。
さらに真っ赤になったルルーシュだったが、肩の上の手を払いのけようとはせずそのままシュナイゼルの行為を甘受していた。

そうしている間にも、馬車はパーティー会場へ到着していた。
御者をしていたロイドが馬車の扉を開けシュナイゼルが馬車を降りると、シュナイゼルに差し出された手に自らの手を添えてルルーシュが降りてきた。
そのままシュナイゼルはルルーシュをエスコートしながら、パーティー会場へと入っていった。

パーティー会場となったのは、クロヴィスの宮殿内にある美しい広間で行われていた。
会場内には貴族や来賓客達がすでに大勢到着し、思い思いにパーティーを楽しんでいる様子だった。

その中には他の皇族たちの姿もあった。

「ルルーシュ! シュナイゼル兄様!」

ルルーシュとシュナイゼルは声のした方へと振り返った。
そこにはシュナイゼルの異母妹のユーフェミアとルルーシュの妹のナナリー、シュナイゼルの異母妹でユーフミアの姉であるコーネリアがルルーシュ達の方へと歩いて来ていた。
ユーフェミアに至ってはそのままルルーシュに抱きついた。

「ナナリーにユーフェミア! それにコーネリアお義理姉様!」
「御機嫌よう、ルルーシュお姉様、シュナイゼルお義理兄様。お久しぶりです」
「御機嫌よう、シュナイゼル兄上。ルルーシュ元気そうでなによりだ」
「久しぶりナナリー。コーネリアお義理姉様もお元気そうで」
「ナナリー、久しぶりだね。それに、ユーフェミアは相変わらずだ」

そう言いながらシュナイゼルは、未だにルルーシュに抱きついたままのユーフェミアに視線を向けた。
顔はいつものロイヤルスマイルだが、目が全く笑っていない。
それに気がついたコーネリアは異母妹にまで嫉妬をむける独占欲の塊の異母兄に呆れながら、不穏な雰囲気を警戒していた。

しかしそんな姉の心配をよそにユーフミアは異母兄の危ない気配など気にも留めず、久しぶりに会ったルルーシュにベッタリとくっ付いたまま。
ユーフェミアぐらいだろう、シュナイゼルのそんな視線と雰囲気に耐えられるのは・・・・・・。

「ユーフェミア、そろそろ私の妻を放してくれないか?」
「あら、お兄様はいつもルルーシュを独占しているじゃありませんか。たまには宜しいでしょ?」

危険だ。
あきらかに危険な方向へと向かっている。

シュナイゼルとユーフェミアの間に挟まれたルルーシュはどうしたらいいか分からず二人の顔を交互に見ている。
ナナリーはそんな三人の様子を見ながら可愛らしく微笑んでいる。
このままで埒があかないうえ、ルルーシュが可哀そうだ。それにこれ以上シュナイゼルを不機嫌にするのは宜しくないとコーネリアが助け舟を出した。

「ユフィ、ルルーシュと兄上はクロヴィスや他の客たちへの挨拶もあるんだ。ルルーシュを放しあげなさい」

姉の言葉に渋々ユーフェミアはルルーシュを放した。
それに満足したシュナイゼルはルルーシュをエスコートしながら弟のクロヴィスの元へと向かうことにした。

「それじゃ、行こうかルル」
「はい、シュナイゼル殿下。それではまた後で、ナナリー、ユーフェミア、コーネリアお義理姉様」
「また後で。お姉様、お義理兄様」
「それじゃぁね、ルルーシュ!」
ユーフェミア達と別れたルルーシュ達は、今日のパーティーの主役であるクロヴィスの元へと向かった。

クロヴィスは他の来賓客たちに囲まれていた。
だがシュナイゼルとルルーシュの姿を見つけると、直ぐに二人の元へ笑顔を浮かべながら歩いて来た。

「兄上! ルルーシュ!」
「やぁクロヴィス、おめでとう」
「おめでとうございます、クロヴィス殿下」
「ありがとうございます、兄上。ありがとう、ルルーシュ」

クロヴィスはやってき兄と兄の妻に満面の笑みで応えた。
ルルーシュの幼い頃を知る彼は、ルルーシュを大変可愛がっていた。
なので、自分の誕生日を祝ってくれることがとても嬉しいらしい。

そんな様子のクロヴィスに、まさか本に夢中なってもう少しでこの誕生パーティーを忘れるところだったなどと口が裂けても言えないルルーシュだった・・・。





そんな事を思いながらもルルーシュとシュナイゼルがクロヴィスと別れ、パーティーに来ていた他の客たちへとの挨拶へ行こうとした。
その瞬間、眩暈のような気持ち悪さのようなものがルルーシュを襲った。

「ルルーシュ?」

幸いにもそれほど酷いものではないので、ルルーシュはそのままやり過ごそうとしたのだが彼女の体調変化をいち早く感じ取った夫によってそれは無駄になった。

「ルル? 顔色が悪いようだが・・・」
「大丈夫です、殿下。 それほど辛いわけでもありませんし」
「駄目だよルルーシュ、あまり無理をしてはいけない。最近あまり体調が良くないことはミレイ嬢やカレン嬢から聞いている。今日のところはクロヴィスに挨拶はしたことだし、もう帰ろう」
「しかし、殿下!」
「ルルーシュ、 私はこのパーティーよりも君のことの方が断然大事なんだ」

そう言われた瞬間ルルーシュは顔を赤くたし、まともにシュナイゼルの顔が見ることが出来ず俯いた。

シュナイゼルの言った通り、最近ルルーシュはよく体調を崩していた。
ただの疲れだと思っているルルーシュだが、カレンかミレイはとても心配しルルーシュには悪いが彼女の体調不良を彼女の夫であるシュナイゼルに報告していたのである。
シュナイゼルも最近のルルーシュの様子を少しおかしいと思っていたので少し不安に思っていた。

そんなルルーシュの肩を抱き、シュナイゼルはクロヴィスの元まで行くと『妻の体調が思わしくないので途中で帰らせてもらう』と簡単に伝えた。
それを聞いたクロヴィスはルルーシュを心配しながらも帰りを則した。
そこまでされてしまってはルルーシュは何も言えず、クロヴィスには悪いが今日は帰ることにした。

「大丈夫かい? ルルーシュ」

宮殿に着くやいなや、シュナイゼルはルルーシュを横抱きにすると(俗に云うお姫様抱っこ)、彼女の体に負担がかからないほどに急ぎながら寝室まで向かった。
寝室に着くとシュナイゼルはルルーシュをベッドの上へとそっと降ろすと、近くにあったショールをルルーシュの肩へと掛け彼女の居るベッドの淵へと腰かけた。
シュナイゼルはルルーシュの頬へと手を添えると、彼女に話しかけた。

「ルルーシュ、最近あまり体調が良くないようだが・・・」
「大丈夫ですよ。 そんなに心配しないで下さい」

それでも『まだ大丈夫』と言うルルーシュにシュナイゼルは不安の色を滲ませた表情を向けた。
そんな彼の様子に、頬に添えられた手に自らの手を添えると何でもないように微笑んで見せた。

そうしていると、寝室の扉からノックの音が響いた。
シュナイゼルが入室を許可すると、そこにはルルーシュのことを気遣ったミレイが温かなココアの入ったカップを持って立っていた。

そのままベッドの近くまで来たミレイからカップを受けとったシュナイゼルは、それをルルーシュへと手渡した。
ルルーシュはそれを受けとると、カップに口をつけようとしたその瞬間・・・

「! うっ・・・!」
「ルル!」
「ルルーシュ様!」

ルルーシュはいきなり襲ってき吐き気に口を押さえた。
そんなルルーシュの様子にシュナイゼルは彼女の肩に手をやり、ミレイが差し出した器をそっと手渡した。

しばらくすると、何とか吐き気は落ち着き肩で苦しそうに息をするルルーシュの背中をシュナイゼルは優しく撫ぜた。
ミレイは医者を呼びに行くため部屋を出ていった。

シュナイゼルはルルーシュの背を撫ぜながらあることに気が付き、それを確かめるべくルルーシュにそっと尋ねた。

「ルルーシュもしかして……。ルル、前に月経がきたのはいつだい?」

それを言われた瞬間、ルルーシュにはシュナイゼルが何を考えているかすぐにわかった。

「そう…いえば、しばらく…、きてない、です…」
「ルルーシュ、まさか」
「えぇ、もしかしたら……///」

シュナイゼルが驚きと喜びを隠し切れず言うと、ルルーシュは期待と少しの不安が混じった顔で返事をした。










「おめでとうございます、丁度三ヵ月目です」

そうラクシャータが言うと、ルルーシュとシュナイゼルは本当に嬉しそうに微笑みあい、シュナイゼルに至ってはルルーシュを優しくだが力強く抱き締めた。

「最近のルルちゃんの体調不良も悪阻からくるものだったのでしょう。まだ少し辛い悪阻が続くから安静にしてなきゃ駄目よ」

ラクシャータはそのあと詳しい説明をすると、幸せそうにする二人の邪魔は出来ないと早々に部屋を後にした。

ラクシャータが部屋を出て行くのを見届けると、シュナイゼルはルルーシュの体を抱きしめ直した。

「シュナイゼル……///」
「ルルーシュ、本当に嬉しいよ。君と私の子供なんだね…」
「えぇ、そうです。私とあなたの子です」
 
ルルーシュはそう言いながら、自分の腹部を愛おしそうに撫でた。
シュナイゼルも彼女の手に自らのそれをのせ、愛おしそうに微笑んだ。


そこには確かに、大切な人と育んだ愛の結晶が存在するのだ。


二人はもうこれ以上ないほど幸せそうに微笑みあうと、どちらともなくそっと、甘い口づけを交わした。

口付けが終わると、二人甘く互いに囁いた。

「シュナイゼル」
「ルルーシュ」


『永遠に、愛してる』 








・・・・甘。
甘すぎる。
これ読み返す度に赤面して床の上転げ回ります。

それに、
この小説実は長編考えててその番外編だし・・・・・・。
あれ? もしかしてネタバレ!?

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