あの子のことだから、
きっと明日のことなんて知らないのだろうと思っていた。
だから、
自分から用意しようという考えに至ったのだ。
…………受け取ってくれるといいのだが。
赤い花束とピンクのリボン
次の日、
グラハムは待ち合わせの場所へと、約束の時間の二時間前に着いていた。
……いくらなんでも早過ぎである。
しかし、
そもそも彼の恋人はあまり出歩くことが好きではない方で、人ごみやら騒がしい場所やらが嫌いな彼女が外でのデートを承諾すること自体たまにしかないことなのだ。
そのせいか、グラハムも少し浮かれ気味になりこんな早くに来てしまうのも無理はない話だった。
そうやって結構な時間を待っていると、向こうの方から彼女が歩いてくるのが見えた。
それを見つけたグラハムはすぐに手を上げて彼女の名前を呼ぼうとしたが、彼女の姿がハッキリと見えた瞬間、呆然としてしまった。
何故なら、
彼女の格好があまりにも可愛かったからだ。
いや、
もちろん彼女はいつも可愛い。
彼女の容姿はそこら辺にいるどんな女よりも綺麗で可愛らしい。
しかし、
今日はそれプラス、とても可愛い格好をしているのだ。
いつもの彼女は、あまり女の子らしい格好はしない。
どちらかというと簡素な恰好が多い彼女だ。
でも、
今日の彼女はどうだろう。
白いニットのワンピースに可愛らしいダッフルのコート、足には黒のスニーカーブーツ。
少し癖のある長い髪は左右二つに結んであり、顔はいつもなら滅多にしない化粧が薄く施されていた。
「待たせたな、グラハム」
「あ、あぁ。いや、問題ないよ刹那」
刹那の言葉にやっと我に帰ったグラハムは、いつもと違う刹那の格好を嬉しく思いながら、素直に疑問を口に出した。
「ところで、どうしたのだい?その格好……」
「こ、これは今日のこと話したら友人たちが……/////」
「あぁ、なるほど」
「にっ、似合ってないか?////」
「いや!! 決してそんなことはない!! とてもよく似合っているよ!!」
そうグラハムが言うと、刹那は嬉しそうに笑った。
普段表情に乏しい彼女の頬笑みに、またしても呆けそうになる自分をなんとかとどめ、持っていた赤い薔薇の花束を彼女へと手渡した。
「これを、刹那」
「えっ?」
「今日はバレンタインだからね。この花を君に」
そう言って手渡された名束を受け取ると、刹那はその花束の中に一枚のカードがあることに気がついた。
そのカードを手に取るとりそっとカードを開く。
カードには、
『To Setsuna Happy Valentine’s Day I Love You From Graham』
と、書かれていた。
それを見た瞬間、刹那の顔は林檎のように真っ赤になる。
それを可愛いと思い見ていたグラハムに、刹那は自分の鞄の中からピンクのリボンで可愛らしくラッピングされた箱を差し出した。
「こ、これは俺からだ////」
「えっ?」
今度はグラハムが驚く。
そしてそれが何なのか理解した瞬間、グラハムの顔はすぐさま歓喜に溢れた。
「きょっ、今日はバレンタインなんだろう? だから、これをお前にやる」
そう言って渡れた箱は、
紛れもなく刹那からのバレンタインのチョコレート。
「たぶん、失敗せず作れたから味は大丈夫だと思う」
「まさか、君の手作りかい!?」
「あぁ、そうだが」
その瞬間、
グラハムの心は、もう幸せで溢れていた。
あの刹那が、
普段はあんなに素っ気ない刹那が!!
私のために可愛らしい格好をして、
私のためにチョコレートを準備して、
しかも手作りで!!!!
そう思ったら、グラハムは刹那を抱きしめていた。
「!! お、おいっ、やめろ!! こんな場所で!!」
そう言って慌てて刹那はグラハムを引き剥がそうとするが、グラハムは抱きしめる力をもっと強くしてくる。
そうやってしばらく抱きしめていたと思ったら、行き成り体が離れたと思った瞬間、刹那の唇はグラハムのそれに重ねられていた。
「○♀□●△×♂◇!!!!///////」
すぐに唇は離れて行ったが、刹那はあまりのことに驚き固まってしまう。
そんな刹那の手を引き、グラハムは今日の予定のデートへと繰り出すために歩きだした。
そんなグラハムに半分引きずられる形で刹那も歩きだした。
まだまだ、
二人のデートは始まったばっかりなのだから……。
バレンタインだから、
いつもは冷たい刹那もグラハムに優し。(笑
ちなみに、
刹那の云う友人達はルイスとクリスあたりです。