そっと手の広に落ちたのは、
薄紅色の花びらでした……。





薄紅色の音色だけを……





前までは、自分の誕生日をあまり覚えている方ではなかった。

そんなことを考えながら刹那は自分の手を引く男を見た。
さっきからまるで子供みたいに楽しそうに歩いていく男は、待ち合わせに少し遅れた自分を責めることなんかせず、ましては自分の姿を見つけた途端嬉しそうに顔を崩し「ではさっそく行こう!」と言って俺の手を取った。

それにしても、なぜこうしてこの男に手を引かれながら歩いているかというと今日は自分の誕生日だ。
ということで一応俺の恋人のこの男、グラハムは勿論自分をデートに誘ってきた。
そうなれば断る理由は勿論ないし、内心では嬉しく思いながら誘いを受けた。

……まぁ、そんなことこの男には絶対言ってやらないが。

「おい、何処へ行くつもりだ?」
「そう急ぐな。もう少しで着く」

そんなやり取りを数回繰り返していると、少し街から外れた大きな公園へとやって来た。
公園内に入ってからもグラハムはどんどんと先へ進んで行き、段々と周りの人が少なくなっていく。
そうやって公園の奥の奥までやってきた二人の目の前には……

「わぁ……」
「どうだ、綺麗だろう」

薄紅色の花を枝いっぱいに満開にさせた、大きな一本の木が立っていた。
「この木はね、『サクラ』と言うらしい。日本の国の花でもあるらしいんだが、春になるとこうやって美しい桃色の花を咲かすと聞いていたのでね。是非君と見たいと思ってね。丁度、君の誕生日には満開になる頃だと聞いたからね」
「『サクラ』……と、言うのか。綺麗だ・・・・・・」
「気に入ったかな?」
「あぁ・・・」

目の前に広がる美しい光景にしばらく二人は見入っていた。
そうしていると、ぽつりとグラハムが語りだした。

「ここはね、なかなか人に知られてない穴場らしいのだ。偶然この場所を知ってね」
「そうなのか?」
「あぁ」

そういうと、グラハム上着の内ポケットから綺麗に包装された小さな箱を取り出した。
それを刹那へと差し出しながら……

「Happy Birthday 刹那」
「俺にか?」
「勿論、君以外に誰がいるのだね」
「ありがとう。……開けてもいいか?」
「あぁ、どうぞ」

俺は受けとった箱の包みをそっととき、中の箱を開けた。
中には……

「指輪と、オルゴール?」

中にはシンプルだが美しく繊細な模様が彫られた指輪と、箱を開けた瞬間に鳴り出したオルゴールが入っていた。

「そうだ。まぁ、まだ婚約指輪には早いが私とペアの指輪だ。オルゴールは、何となく贈りたくてね」

そう言うグラハムの言葉を聞きながら、刹那はじっと箱の中身を見ながら動こうとしない。

「刹那?」

グラハムの問い掛けに顔をあげると、刹那は中の指輪を取り出しグラハムへと差し出す。

「なぁ、この指輪嵌めてくれるか?」

そう言った刹那の言葉にグラハムは驚きながらも、次の瞬間とても嬉しそうに微笑むと「承諾した」と指輪を手に取ると刹那の左手を持ち、薬指へと指輪を嵌めていく。

「生まれてきてくれてありがとう、刹那」

その言葉を聞きながら、来年もこいつとここへ来ようと刹那は心の中で誓った。
美しい桜の花が舞、優しいオルゴールの音色が包む中で……












街を歩いていると桜がとっても綺麗なのでつい……

刹那はきっと前までは平気で自分の誕生日忘れてたけど、
きっと今ではグラハムや周りの人たちのおかげで嫌でも分かってしまうと思います(笑

それでは改めて、
誕生日おめでとう刹那。